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硝子の挿話

第17章 漆黒

 残せない―――偽りだらだった世界で、失くした色を教えてくれた相手をユウリヤは見る。

「……」

 言葉が出せない。
 ティアは喉の奥で張り付いたままの言葉が、痛みに相殺される。上手く辿ることが出来ない悔しさが涙として零れた。

 瞳をティアが閉じる。

 その合図にユウリヤは、その湿った唇に、自分の唇をおしあてた。









 長いキスの後、二人は少しでも雨を避ける為に木陰に入る。―――しっかりと互いに繋いだ手は離さずに。

「約束しよう―――」

 ティアの身体を抱きしめて、ユウリヤは鼓動を感じていた。
 耳朶に囁く声は、ティアの一番好きな高さで、甘くて優しい。
「約、そ…く?」
 ティアは微動だにせず、その声に耳を傾けている。
「そう。約束」
 抱き締めてくる強い腕の感触は、きっと最期まで残る。

「いつか時空のどこかで、二人が巡り逢えるように…」

 ここで肉体を失おうとも、必ず出会えるように。
 この海の果てでも構わない。
 もう一度、深く重ねあわせた唇。

 地面は不規則に揺れている。

 けれどティアはもう怖くなかった。―――怖い筈もない。
 何故なら側に、ユウリヤの体温があるからだ。


鼓動。

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