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硝子の挿話

第18章 幽玄

 過去、そういう姿に少しだけ傾きかけた気持ちがあった。
 けれど、それもあそこまでだった。
 それほど衝撃的だった。
 己を恥じもしたが、やろうとしてやれることではない。

 それが真実だ。

「彼女になって欲しい」

 前世だけで好きになったわけでなく、愛しているのは、やはり変わらない。
 どこか脅えたような、繊細な心だ。
 千尋は真っ赤になって答えにこまっていた。

 けれど忘れられない面影があり、千尋はずっと求めていた。

 泣いた夜があった。
 苦しくて、切なくて、泣いた夜。
 存在を求めて、眠りについた。

『だきしめていてほしい』

 そう願い、瞼を閉ざした。
 夢の中でしか逢えない存在を、由南に感じている。


 あの瞬間と同じ願いが、胸を満たしていくのを千尋は無意識下で感じていた。
 二人は、また出逢ったのだ。沢山の約束を交わして、こうして現代へ繋がるほど。

 それは刹那の幻を、集めた宝石箱にしまった―――夢の欠片。

 ならば、永久に覚めることがないように。
 強く祈れば、手にすることが出来るだろうか。
 物語を続きを、二人でまた始めることを。
 望んでも、許されるのだろうか。





 伸ばした手を受け取ってもらい、握った手を繋いだまま、隣を歩いてもいいのだろうか。
 千尋はぼんやりと由南の姿を見ている。千遼ではなく、千尋がいいという言葉を、信じてもいいのだろうか。
 不安と期待。
 交互によせてくる感情に、千尋は覚悟を決めた。

「私で…よろしいのです…か?…本当に?」

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