硝子の挿話
第3章 螺旋
世情は狂ったメトロノームのように、歪に狂いながら動いている。もう止める術はないのかと思っても、声が―――届かない。
「リリティア様」
車から降りてきた均整の取れた青年というよりはまだ少年っぽさを残した身体。ティアが声に肩をすくめた。
《私を知らない人の前で、私を呼ばないで!》
唇を噛んで、喉の奥で叫んでいるティアがいた。
ティアとは昔からの愛称で、本名はリリティアという。このリリティアという名前は、中央に王権で君臨する時の王より知られていた。
北の太陽宮、西の月空宮、南の水耀宮。この三つの宮殿は三大神殿として上空から見れば、線で結ぶと正三角を作る。ようはピラミッド形に遠い過去、始祖達によって配置され建設された。
その三大神殿の中でただ一人、この世で最高の奇跡を宿す偉大なる水姫神子。―――水神殿『水耀宮』の主の名前だった。
ユウリヤは頭の先から雷撃を受けたみたいな衝撃を覚え、全身を硬直させる。今聞こえた名前を疑うみたいにティアを見上げていた。
ティアは気配でだけでそれを感じながら、そのまま振り切るように騎士の傍らに立つ。
いっそ機械的にも見える優美な仕草をただ見ていた。
よもやこの海が水姫神子の禁域だったとは思わず、ユウリヤが初めて息を呑んだ。呼吸さえ止めていると、喉が変に乾いていることも知った。
ただ《有罪》が、全てを飲み込んだ。
二人は出会ってしまった。
本来ならば、けして出会うはずのない場所で―――。
†
沈んでいく陽光の光に、車の天板が同じ色を反射させている。透明な多角水晶で覆われた虹色に輝く水晶が、茜と重なり美しい色を広げていた。
車を走らせる原動力は太陽光線。いわばプリズムを介し利用して、車を走らせるシステムになっている。
「…遅くなりました」
「いえ…」
答える声に張りはないが、いつも以上に柔らかい。ティアにドアを開け、入り込むのを確認すると自らも運転席に乗り込む。
「リリティア様」
車から降りてきた均整の取れた青年というよりはまだ少年っぽさを残した身体。ティアが声に肩をすくめた。
《私を知らない人の前で、私を呼ばないで!》
唇を噛んで、喉の奥で叫んでいるティアがいた。
ティアとは昔からの愛称で、本名はリリティアという。このリリティアという名前は、中央に王権で君臨する時の王より知られていた。
北の太陽宮、西の月空宮、南の水耀宮。この三つの宮殿は三大神殿として上空から見れば、線で結ぶと正三角を作る。ようはピラミッド形に遠い過去、始祖達によって配置され建設された。
その三大神殿の中でただ一人、この世で最高の奇跡を宿す偉大なる水姫神子。―――水神殿『水耀宮』の主の名前だった。
ユウリヤは頭の先から雷撃を受けたみたいな衝撃を覚え、全身を硬直させる。今聞こえた名前を疑うみたいにティアを見上げていた。
ティアは気配でだけでそれを感じながら、そのまま振り切るように騎士の傍らに立つ。
いっそ機械的にも見える優美な仕草をただ見ていた。
よもやこの海が水姫神子の禁域だったとは思わず、ユウリヤが初めて息を呑んだ。呼吸さえ止めていると、喉が変に乾いていることも知った。
ただ《有罪》が、全てを飲み込んだ。
二人は出会ってしまった。
本来ならば、けして出会うはずのない場所で―――。
†
沈んでいく陽光の光に、車の天板が同じ色を反射させている。透明な多角水晶で覆われた虹色に輝く水晶が、茜と重なり美しい色を広げていた。
車を走らせる原動力は太陽光線。いわばプリズムを介し利用して、車を走らせるシステムになっている。
「…遅くなりました」
「いえ…」
答える声に張りはないが、いつも以上に柔らかい。ティアにドアを開け、入り込むのを確認すると自らも運転席に乗り込む。