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硝子の挿話

第3章 螺旋

 無駄を嫌う寡黙な男は、言葉もなくアクセルを強く踏んだ。
 日が沈むまでに水耀宮へたどり着くのが男の仕事である。迷いもなく走りだした。





 アトランティスは大陸というよりも大きな島国と言った方が相応しいだろう。
 ピラミッドに位置している三つの都は、それぞれの特性を生かしている。
 太陽宮は一番歴史が古く、最初に作られたとも言われている。全ての中心に位置することもあり、別名を中央神殿ともいう。
 このあたりの付近では、古代裸子植物であるホーターという原始の麦だ。科学や医学が発展し現在では工業地帯も幾つが分布されていた。
 西の月空宮は一番新しく造られた神殿である。主に四方を海に覆われている地の利で、外の貿易が盛んに行われ、商業が賑わいをみせる。暑すぎず寒すぎずの比較的温暖な地帯でもあった。
 そしてティアが治める南の水耀宮は緑豊かで土壌がいいこともあり、国産産出に力を入れている上に、資源が豊富に貯蓄されていた。
 それぞれ神殿がある宮には、大きな円柱水晶があり、太陽光線や稲妻などを取り入れ、ラジオ波に似た可視光線を国中に伝播しているのである。天上には車と同じ天板が張られ、電気を作り出していた。



 外からの風景は紫が深くなり、紫紺に支配されると車の速度は遅くなる。残りは貯蓄分で走らなければならない。
 窓の外を眺めているティアは、自分が在籍する水耀宮以外、外出を許される場所はほぼ無きに等しい。唯一外の自由があるのだとしたら、禁圧のあの場所のみであった。

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