硝子の挿話
第3章 螺旋
宮の門から奥に進み、私用の離れ宮がある。その入り口で車体を止まると騎士が扉をあけた。
車内で素早く着替を済ませたティアが、ゆっくりとした仕草で降りる。
「…ご苦労様でした」
やんわりとした口調で、綻ぶ笑顔を前に直視出来ない騎士は顔を紅くし、やおら跪いて叩頭した。
「リリティア様の御心が慰められるなら…」
深い敬愛を込めて呟かれた言葉は、顔を伏せたまま繋げられる。
「行くのも送ることも…苦労とは思いません」
まっすぐに向けれられる敬愛に、困惑と悲しみを包むように、ティアは彼を見た。
「…どうか、頭を上げて下さい。幼馴染みのあなたまで〔私〕を〔特別〕視しないで下さい」
もううなだれるように呟いて、願いを胸に、幾度その肩に軽く触れただろう。それでも騎士は首を左右に振り、頑として体勢を崩さない。
「タルマーノ。今は二人です! …何度でも言います。せめて昔のように〔ティア〕と呼んでください」
やりきれない気持ちが、こうして彼女を拘束し、なき崩しに〔姫神子〕以外の姿を拒絶されてしまうのだ。たとえそれが過剰な意識だとしても、錯覚はまともに襲ってくる。
「タルマーノ…」
本来であれば、こうしてお互いを見ることはなかった筈だった。
車内で素早く着替を済ませたティアが、ゆっくりとした仕草で降りる。
「…ご苦労様でした」
やんわりとした口調で、綻ぶ笑顔を前に直視出来ない騎士は顔を紅くし、やおら跪いて叩頭した。
「リリティア様の御心が慰められるなら…」
深い敬愛を込めて呟かれた言葉は、顔を伏せたまま繋げられる。
「行くのも送ることも…苦労とは思いません」
まっすぐに向けれられる敬愛に、困惑と悲しみを包むように、ティアは彼を見た。
「…どうか、頭を上げて下さい。幼馴染みのあなたまで〔私〕を〔特別〕視しないで下さい」
もううなだれるように呟いて、願いを胸に、幾度その肩に軽く触れただろう。それでも騎士は首を左右に振り、頑として体勢を崩さない。
「タルマーノ。今は二人です! …何度でも言います。せめて昔のように〔ティア〕と呼んでください」
やりきれない気持ちが、こうして彼女を拘束し、なき崩しに〔姫神子〕以外の姿を拒絶されてしまうのだ。たとえそれが過剰な意識だとしても、錯覚はまともに襲ってくる。
「タルマーノ…」
本来であれば、こうしてお互いを見ることはなかった筈だった。