硝子の挿話
第3章 螺旋
どうしてこうなってしまったのだろうと、ティアが考えたとしても答えは出ない。
分かっているのは、ただもうこの幼馴染は自分の手を引いて遊びには連れ出してくれないのだという事実だけ。
風習は諦めと絶望を求め、生活するために子供を売り払うことも珍しくない。親が子供を殺し、子供がまた親を殺す。
水耀宮ではまだそのような事件はおきていないが、王権国家ではそんな貧しさにわずかに明日へと望みをかけて、黒く塗られた全てを隔てる大きな壁の向こうから、度々不法侵入してくることもあった。
『助ケテクレ!』
やせ衰えた腕を精一杯伸ばして、両足に足枷をつけた男が裾にしがみ付いてきた。
『国に戻りたくない』
からからに乾いた唇は、幾つも罅割れて、涙を流して訴える姿が、ティアには恐ろしかった。
声も出せずに息を呑む。ティアに庇護を求め、民衆は奇跡を叫ぶ。その痩せ衰えた両腕で加護を求め泣いた。
恐ろしいとさえ、思う己が民衆の何に役立てるというのか。
まだ残る感触を思い出す度に、暗く狭い場所で右往左往しているだけの自身を恥じた。
元々ティアは直接、神殿の人間ではない。水耀宮の民であったが、小さな農村の警備騎士団にいる両親から生まれた。
分かっているのは、ただもうこの幼馴染は自分の手を引いて遊びには連れ出してくれないのだという事実だけ。
風習は諦めと絶望を求め、生活するために子供を売り払うことも珍しくない。親が子供を殺し、子供がまた親を殺す。
水耀宮ではまだそのような事件はおきていないが、王権国家ではそんな貧しさにわずかに明日へと望みをかけて、黒く塗られた全てを隔てる大きな壁の向こうから、度々不法侵入してくることもあった。
『助ケテクレ!』
やせ衰えた腕を精一杯伸ばして、両足に足枷をつけた男が裾にしがみ付いてきた。
『国に戻りたくない』
からからに乾いた唇は、幾つも罅割れて、涙を流して訴える姿が、ティアには恐ろしかった。
声も出せずに息を呑む。ティアに庇護を求め、民衆は奇跡を叫ぶ。その痩せ衰えた両腕で加護を求め泣いた。
恐ろしいとさえ、思う己が民衆の何に役立てるというのか。
まだ残る感触を思い出す度に、暗く狭い場所で右往左往しているだけの自身を恥じた。
元々ティアは直接、神殿の人間ではない。水耀宮の民であったが、小さな農村の警備騎士団にいる両親から生まれた。