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硝子の挿話

第3章 螺旋

 幼い頃から隣家に住まう二つ年上のタルマーノや従兄弟のサイティアと共に、日夜剣技の鍛錬をして暮らし。疑いもなく、騎士団に未来があると―――純真に信じていたものだ。
 それがどうして、今の地位にあるのか、本人でさえ、ほとんど記憶があやふやになっている。気がついた時には、この場所にひとり取り残されていたのだ。

「………」

 昔はもう少しお転婆だった気がする。だが今のティアは水耀宮の主としてこの都を見下ろす位置に立ち。その事実の重さは、細い肩にのしかかる。ティアは〔リリティア〕と呼ばれる度に消えたいった。

 そう、もう―――居ない。

「私はただの人形ですよ…」
 それだけ呟いて、静かに祈りの間へ入る。本当に叶えたい願いがなんなのか、叶わない夢だと知っていても願ってしまう。それが罪だと諭されたとして、素直に頷くだけなんて出来やしなかった。
 敷き詰められた道は、尖った石が沢山ある。世界を変える力を望む術も分からなくなってきた。
 石造りの室に入ると、六畳ほどの小部屋がある。奥にある水晶柱がオリハルコンの輝きに反射して、鈍く辺りを照らしていた。
「祈りましょう…」
 両手で集める悲哀を、込めて呟いた。

 ―――本当なら逃げてしまいたい。

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