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硝子の挿話

第28章 埋没した色彩

その気持ちが。それだけの理由が、それこそハクレイの強さであり生きている理由そのものだ。
もう記憶もないぐらい小さい頃から、ずっとずっと…ひたむきに。
ただ一人好きになった男の子がユアだった。
サーベルの剣を腰に差すと自然と表情が引き締まる。襟ぐりを整え護衛兵達が集まる詰所と出勤に向かう。…のだが、まだ時間は十分にあることを途中思い立った。

「…先にユアの所に行こう!」

決めてしまうと行動は早く詰所の前でくるりと踵を返す。瞬間―――まるで狙ったみたいに観音扉が開く。さっさとばっくれてしまえと走ろうしたハクレイの腕を、扉を開けた本人が強く掴んだ。

「待てよ…」

その声にハクレイは、額を押さえて無視して振り解こうとする。しかし顔を出した相手はハクレイよりも長身でがっしりとした身体つきをしている。力も強く簡単に振り解けない。


《朝からなんて最悪なんだっ!!》


「待てって言ってんだろ!」

振り解けないとようやく理解したハクレイが相手の力を利用し抜けようとしたのを、強引に後ろから腕を引かれハクレイは重力に逆らえずに相手に沈む。

「あんだよ?」

片目を眇めて見上げるとこの宮最大の権力者メイスの嫡子ケミナスが苦笑していた。

「久しぶりだな。…元気にしていたか?」

おずおずと問い掛けるケミナスにハクレイは苦笑した。

「俺はいつもどうりだけど、急ぐからまたな」

それだけ言うと抱きしめられている姿勢から抜けようとする。だがケミナスはそれを許さず、肩を掴むと強引に唇を奪う。朝一で人の気配はないものの、突然のことに呆然としていたハクレイもハタッと現実に戻ると、なんとか振り払おうと足掻く。

「ん゛~~~!!」

力で逃げようとするハクレイを逃げられないように、ケミナスも力で後頭部を抑えた。
理解してしまえば、その行動はたまらない嫌悪を生み出し、渾身の力を込めてケミナスを突き飛ばす。渾身の力であっても、ケミナスは堪えなく腕の拘束と唇の拘束は解けたが一歩退く程度の力だった。

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