硝子の挿話
第28章 埋没した色彩
「男に接吻なんざしてんじゃねぇよ!!」
触れられた唇を、汚いものに触れたように袖で強く擦る。強く睨みつけるハクレイの視線は言葉以上にはっきりと嫌悪を伝えていた。
―――汚らしい!!
その瞳は雄弁に語る。言葉にしない部分が鋭いナイフみたいにケミナスを刺激する。その仕草も瞳も赦さない腕は、もう一度乱暴にハクレイを抱きよせ、声という声は吐息さえ遮り塞ぐ大きな片手。
ケミナスもハクレイ同様に騎士の資格を持ち、また武道もたけている。いくらハクレイが騎士でも武道をしていても―――徹底的に叶わない敗因は、見せないようにしている震えだ。
舌打ちしたハクレイは逃れようと、強く身体を捻り隙間を作りだして抜け出した。
「逃げるか?」
ニヤリといやらしく笑う。その表情はハクレイがこの世で誰よりも憎悪し、何よりも嫌悪する姿に酷似して吐き気がしていた。
「やる気かよ?」
そう簡単に何度も唇に触れさせない。思い出した感触を拭うハクレイに眉間を顰めて苦笑する。
思い通りにはならない!
ハクレイがゆっくりと構える。腕は自信があるし確かだ。幼い頃から、伊達に騎士をしていた母であったユノに習っていない。殺気を呼気に込めて吐き出した。
ふっと唇の端を吊り上げてケミナスは笑う。
「おまえ、本当は俺が怖いんだろう?俺はお前を男として抱きたいんじゃない。女として可愛がりたいって思っているんだぜ?」
ハクレイの中で宿る根本的な恐怖をよびさます。
「ほら…顔が凍りついた。本心突かれたからか?」
‐ドクンっ‥
ケミナスはハクレイが女だということ知る数少ない相手であると同時に、女としてのハクレイを欲しいと言葉にして手を伸ばしてきた。それまでは同じ騎士団の仲間としていたのに、いつハクレイが女だということを知ったのだろうか。男装してまで騎士団の中にいることで珍種みたいに見られている気がして、ハクレイは何度こうして拳を固めただろう。
心拍数は異常に上がり、呼吸の乱れがそのまま指さえ伝わり震える。自分を女としてみる眼が怖いなんて―――情けない。唇を噛み締めて呼気を整えた。
《俺は女じゃない…!》
幾らも年が変わらない端正な顔を目掛け、下段から上段にけりあげた。
触れられた唇を、汚いものに触れたように袖で強く擦る。強く睨みつけるハクレイの視線は言葉以上にはっきりと嫌悪を伝えていた。
―――汚らしい!!
その瞳は雄弁に語る。言葉にしない部分が鋭いナイフみたいにケミナスを刺激する。その仕草も瞳も赦さない腕は、もう一度乱暴にハクレイを抱きよせ、声という声は吐息さえ遮り塞ぐ大きな片手。
ケミナスもハクレイ同様に騎士の資格を持ち、また武道もたけている。いくらハクレイが騎士でも武道をしていても―――徹底的に叶わない敗因は、見せないようにしている震えだ。
舌打ちしたハクレイは逃れようと、強く身体を捻り隙間を作りだして抜け出した。
「逃げるか?」
ニヤリといやらしく笑う。その表情はハクレイがこの世で誰よりも憎悪し、何よりも嫌悪する姿に酷似して吐き気がしていた。
「やる気かよ?」
そう簡単に何度も唇に触れさせない。思い出した感触を拭うハクレイに眉間を顰めて苦笑する。
思い通りにはならない!
ハクレイがゆっくりと構える。腕は自信があるし確かだ。幼い頃から、伊達に騎士をしていた母であったユノに習っていない。殺気を呼気に込めて吐き出した。
ふっと唇の端を吊り上げてケミナスは笑う。
「おまえ、本当は俺が怖いんだろう?俺はお前を男として抱きたいんじゃない。女として可愛がりたいって思っているんだぜ?」
ハクレイの中で宿る根本的な恐怖をよびさます。
「ほら…顔が凍りついた。本心突かれたからか?」
‐ドクンっ‥
ケミナスはハクレイが女だということ知る数少ない相手であると同時に、女としてのハクレイを欲しいと言葉にして手を伸ばしてきた。それまでは同じ騎士団の仲間としていたのに、いつハクレイが女だということを知ったのだろうか。男装してまで騎士団の中にいることで珍種みたいに見られている気がして、ハクレイは何度こうして拳を固めただろう。
心拍数は異常に上がり、呼吸の乱れがそのまま指さえ伝わり震える。自分を女としてみる眼が怖いなんて―――情けない。唇を噛み締めて呼気を整えた。
《俺は女じゃない…!》
幾らも年が変わらない端正な顔を目掛け、下段から上段にけりあげた。