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硝子の挿話

第28章 埋没した色彩

「その気持ちだけ受け取っておくさな」

―――笑った。

笑う事も得意なのだ。
ユアに見せる笑顔だから、自分の最高にしたい。その気持ちを向けて、ハクレイは笑顔を見せる。心の鬱積さえもまったく見せないで、彼が抱える重さを知っているから、負担には絶対なりたくない。そのプライドもあったけど。

「じゃ、僕行くけど、明日来れるかい?」

きょとんとした目がユアを見て、軽く首をかしげる。

「明日休み?」

その問いかけに、ユアは苦笑を浮かべた。

「うん」
「行く行く行く…絶対行く!」

勢いついて飛び付く。友達の距離なら出来ることだ。心のどこかでその行為を卑怯だと思っている自分もいるのに、やはりこうしまうのは少しでも触れていたい願望があるからだろう。どこか冷静な部分がそう判断していた。

「いつでもいいからおいでよ」

その言葉に、ハクレイは大きくうなずいた。

「コレありがとうなっ!」

それだけ言って、ハクレイは仕事に向かうと嘘をついて、ユアとわかれる。……少しだけ歩いて、ハクレイは振り返った。
ユアの後ろ姿を見つめる。

《…好きだよ》

けして、言葉にすることは許されない。
唇を噛んで強く踵を返す。そして振り返らないで歩いていく。……ただ、服の上[心臓]のあたりを掴んだ。痛みに、身体が慣れることは無いのだ。


――けど、死ぬことは許されない。


「調練しようぜっ!」

騎士達が集う詰所に、誰でもいいから付き合ってくれと声をかけた。

「私でいいなら、受けるけど…」

長い髪を高く結い上げて、緩やかな波をつくっている少女が立ち上がった。

「マーちゃん!」

キラキラキラ…ハクレイの瞳が輝いて、抱きついたのはハクレイの親友で従姉妹でもあるマテリア。母親の双子の妹であったユチの娘にあたる。顔は父親似の為に似ていないが、艶ややかな美少女でハクレイより一つだけ上になる。

「ハクヤ…また短くなったね」

触ると手の平に刺さる髪。指先が触れるとハクレイの瞳みたいに鋭くあった。

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