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硝子の挿話

第3章 螺旋

 特技のひとつにティアは、全ての人間が持つ色を心眼で見て、持つ匂いを嗅覚で感じることが出来る。
「タルマーノは、もう私を友達とは認めてくれない…」
 その背中には、あの頃と変わらない土の精霊が見えるのに。主と言う名に、縛られたタルマーノは、再会に笑みをひろげるティアにひざまついた。
 彼は、ティアにはっきりとした一線を引く。

「リリティア様に永遠の忠誠を!」

 望んだ言葉ではない。そしてその瞬間、密かに募らせていたティアの初恋は粉砕された。―――粉々になったのは、感情の色か。
 それとも形か…。
 未だに解らない。
 ティアは神殿での修行や、勉学に従事する最中に、いつか誰かが、必ず迎えに来てくれると信じる夢を見ていた。
 切望し、強く、深く、祈っていた。



‐誰カ、私ヲ。此処カラ・・・‐



 希望は幻想の果てで、見る夢の産物でしかない。現実にはありえないと何度も諦めた。
 諦める度に、大切にしていた何かが絶望という一言に塗り替えられていく。鮮明になっていく闇を抱いていた。
 同じ毎日繰り返す。


‐ただカラカラと…‐


 玉座にも等しいと言われる豪奢な椅子に座り、膝をつき祈りを捧げる人々に掌をかざす。
 神子は、万物がカリスマであることを望まれた。
 暗闇みに、どれ程この胸に宿る想いを喰われたら、許されるというのか。
 首を左右に振る。
 逃げれば、信じてる人々を裏切る卑怯モノになりさがってしまう。
 それだけは許されない。
 心は無闇に疲れていた。
 疑心暗鬼な権力を求めて、擦り寄ってくる私欲にまみれた人間に。
 だから僅かな暇さえあれば、あの海に逃げては、一人で過ごすことが、今の精一杯の幸せであり現状への反抗のつもりだ。

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