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硝子の挿話

第4章 蜜月


好き。

愛している。

愛しい。

…簡単な言葉の羅列。



「明日も此処で逢えますか?」
「明日か?」
「そうです…」
 痛いほど感じる切なさや、焦がれは意味を持ち、心に居座っている。甘い蜂蜜に漬けた果実のように。短い時間をこうして二人で居るのが嬉しい。
 秘密は夕刻の波だけが知っている。変化を続ける気持ちに、不安や恐怖が強いのはどうしてだろう。
 〔恋〕という引力には勝てない。
 流され、簡単に堕ちていく。
「明日な…」
「そして謡って欲しい」
「…優しい詩吟(うた)なんて、俺は知らない」
 海面をまっすぐに睨みつけて言う。それは熱に冷水を浴びせるみたいに強い口調。

「………」

 思いの外強い言葉尻にティアを見ると、やはり脅えたように肩を硬直させうつ向いた。
「………」
 ごめんと言わないユウリヤの離さない腕が、より強くティアを抱きしめた。





「離れるな…」
 代わりに呟いた言葉は、ティアに対してか、違う〔誰か〕に言いたい一言みたいに響いた。
 迷いは生まれたが気がつかないふりで、ティアはふっと入っていた力を抜き、彼の体温に縋りついた。

 後、どれだけの時間を。

 茜を反射した世界に伝う波音を、耳にとどめながら一緒に居られるのかと問いたかった。
 彼は楽師、流れることを厭わない彼に、土地に縛られた神子であるティアに芽生えた小さな望み。


 二人寄り添うみたいに。
 存在できるのか。

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