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硝子の挿話

第4章 蜜月

「………」

 視線が怖い。言われなれている呼び名であるのに、どうしてそれをユウリヤが言ったことが許せなかったのか。
 醜いと分かっていても止められない。ないまぜになった感情が、たった一言で行き場を無くすようでそれもまた怖い。

「―――怒ったのか?」

 うつ向いていたティアの細い肩が震るえた。
「私は、『ティア』でなく! 『リリティア』で! …『恋』なんてしてはいけない! うつつを抜かし、責任感がない! 『女』じゃなく『姫神子』らしく…神殿の奥に引っ込んでいろ…そうおっしゃりたいのですか!」
 溜まった膿を出す言葉は、強く荒れていた。
 普段はもとより、初めて声を大にして、迸る感情を露にしたティアを、ユウリヤは瞳を皿にして驚く。まだ一緒にいる時間は短いが―――大人しく、反抗を知らない優等生だと思っていた。

「他は?」

 激情とも言える強さで不平不満を吐き出した後悔。一気に喋って疲れたように肩で息をした。
「…ティア?」
「ごめんなさい…。でも貴方の前だけは『女』で居たいのです…。今日はもう帰ります」

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