硝子の挿話
第4章 蜜月
砂地に両手をついてゆっくりと立ち上がろうとするティアの腕を掴んだ。
「帰るのか?まだ時間じゃない」
迎えが来るのを知っているユウリヤだ。下手な言い訳は赦さないと、毅さが瞳に宿っている。視線を交わらせることが出来ずに反らした。
「星祭の支度があるのは知っている…」
ティアがどういう立場の人間であるかも。しかしこのタイミングで言われてしまえば、喧嘩別れに他ならない。ましてや言いたい言葉を途中で飲み込まれると不完全燃焼で、気まずくなるのが分かっていた。
「帰ります」
「その前に俺の質問に答えていないっ」
頑ななティアに言葉を荒げないように言うと、そのままで唇を噛み締める。見た目と違い根性は座っていた。
「………歩きますから」
「歩くなんて真似させられる訳ないだろうっ!」
怒鳴る言葉に怯えを見せるティア。何かがユウリヤの記憶を廻った。
瞼の奥で描かれた光景。生まれた場所であった太陽宮での出来事。余りにも怖くて封印した―――とても小さな頃の記憶だった。
「一人なんて絶対に駄目だ…」
ぼそっと呟いた言葉。ユウリヤは一人の女性が、人だかりの中で朱を滲ませ崩れたのを見たことがある。幼い自分を母が抱き、父がユウリヤの姉を連れ、訪れた巫女候補審査の時だ。
奉納舞を済ませた一人の、美しい女性が背中を見せた一瞬。
音もなく、崩れた背中の下から広がる朱。幼児期の子供には大きなショックを与えた。
「帰るのか?まだ時間じゃない」
迎えが来るのを知っているユウリヤだ。下手な言い訳は赦さないと、毅さが瞳に宿っている。視線を交わらせることが出来ずに反らした。
「星祭の支度があるのは知っている…」
ティアがどういう立場の人間であるかも。しかしこのタイミングで言われてしまえば、喧嘩別れに他ならない。ましてや言いたい言葉を途中で飲み込まれると不完全燃焼で、気まずくなるのが分かっていた。
「帰ります」
「その前に俺の質問に答えていないっ」
頑ななティアに言葉を荒げないように言うと、そのままで唇を噛み締める。見た目と違い根性は座っていた。
「………歩きますから」
「歩くなんて真似させられる訳ないだろうっ!」
怒鳴る言葉に怯えを見せるティア。何かがユウリヤの記憶を廻った。
瞼の奥で描かれた光景。生まれた場所であった太陽宮での出来事。余りにも怖くて封印した―――とても小さな頃の記憶だった。
「一人なんて絶対に駄目だ…」
ぼそっと呟いた言葉。ユウリヤは一人の女性が、人だかりの中で朱を滲ませ崩れたのを見たことがある。幼い自分を母が抱き、父がユウリヤの姉を連れ、訪れた巫女候補審査の時だ。
奉納舞を済ませた一人の、美しい女性が背中を見せた一瞬。
音もなく、崩れた背中の下から広がる朱。幼児期の子供には大きなショックを与えた。