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硝子の挿話

第4章 蜜月

 これは太陽宮、月空宮、水耀宮の中でも滅多に採れない。水晶としての価値もさることながら、この一帯を封鎖する空に作られた歪みを抜けられる鍵となっている。
「特別に太陽宮の巫女様が作って下さったのです…」
 大切な人にあげなさい。そう言って渡してくれた鍵だ。当時まだ司祭が生きていた頃にあった星祭の日に貰った。
「へぇ…」
「外からは同じ物質でないと出入り出来ないのですから…」
 そう言って小さく笑うティアが半分に分けられた水晶を指先に持って小首を傾げた。
 水晶の名を、虹水晶という。名前は、七色に屈折した輝きを持つから付けられた単純な名前だ。
「聞こうと思って忘れてたんだけど、これを持っていないと何か違うのか?」
「ええ…発見をしたのは、太陽宮の現巫女子様でまだ完全に解き明かされた訳ではないそうですが、含まれている成分が何やら蜃気楼と現実を混ぜてしまうそうです」
 拙い説明でごめんなさいと言いながら、ユウリヤが指先で揺らす石を眺めていた。
「いや、無かったらどうなるんだ?」
「海が見えるのだと、伺いました…とても私の身を案じて下さって、贈って頂いた品ですので、私はこれをお守りだと思っていつも肌身離さず持っていますから見たことがないのです」
 後の一対はタルマーノとサイティアが持っていて、それは純度が落ちる為に、多少空が濁って見えるがティアの位置が分かるのだと聞いたことがあった。
 恐らく太古からある何かの感覚が鋭くなるのだろう。そうティアは考えていた。

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