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硝子の挿話

第4章 蜜月

 何の力も持たない。ただ同じ世界の中で少しばかり、原始の力をもっているだけだ。昔は誰もが使えていた力だとティアは思っている。
 実際、小さな子供の内は不思議が側にあるから、神子をまたはそれを支える巫を目指して神殿へ上がろうとする者も多い。

「私の力なんて大したことないのに…っ! どうして、私に『奇跡』を望むのっ………?」

 両手で顔を覆うことも出来ずに、ただ俯いて涙を垂れ流す。
 雨が全てを濡らしていく。ユウリヤはその横顔を、驚きを持って見ていた。
 溜まっていた膿みたいな感情を、涙で流そうとするように見える。言葉を失ったままユウリヤは唖然とした。
「それとも私は………貴方が愛した誰かに似ているのですか?」
 雨に隠れて声を殺して泣きじゃくる。洩れる嗚咽だけが時々零れるのをしゃっくりが留め、全身を濡らす泣き方で、ただ感情を吐き出すティアを眺めていた。
 冷えていく身体とは逆に、胸が熱くなる。それはどんな意味を持つのか、目の前の少女を眺めている。まだ未完成な居心地の良さをくれる。
「………」
 言葉も出せず、その細く小さな肢体を抱きすくめる。強く抱きしめたら、泣き止んでくれるのではないかと甘えがあった。

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