テキストサイズ

硝子の挿話

第4章 蜜月

「いじめているように、…みえたかな」
 動きを固めたティアも、気がついていたが、あえて何も言わない。だから気配を殺すように寄り添った。

 胸に差し込む影が刹那を思い返して、痛みを抱きしめて泣いた。
 眉根をしかめて、屈んでいたティアの肩に触れる。怯えるティアにユウリヤも怯えていた。
 震える指で、これ以上距離が離れないことを願う爪先。
「………ティア」
 ティアは聞こえないフリを決め込み、雨の向こうに居るイルカから離れ、一歩ユウリヤに近寄った。

「…苦しいなら、吐いてしまえばいい。抱え込まなくていい………」

 ゆっくりと言い切りユウリヤがティアの背中に頬を押し付けて呟いた。
 ティアは驚いた表情で反射的に振り返る。ユウリヤは止めずにもっとと望む体に従い、強く抱きしめた。

「吐けよ…溜めて一人にならなくていい」

 思ったよりも震えて言った言葉。ユウリヤは苦笑してしまうが、ティアはその腕に両手で触れる。心の距離を近づけようと願う他に、ティアは涙を流したまま微笑を浮かべていた。
 痛みはろ過しても消えない。何か前にあったのだろうか―――切なく響く声に、後ろから被さる暖かみに瞳を閉ざした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ