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硝子の挿話

第4章 蜜月

 背中に感じる体温は、限りなく優しく自分を包んでくれる。それが切ないのだと、どう伝えるのだろう。回された腕に甘えたいのに、甘えていいように感じない。

 ―――許されない。

 そんな空気を端々から感じて仕方ないのだと、言えないのは己の弱さでしかない。
 痛いほどそれを感じるのに、聞きとがめられてしまえば、彼が大切に愛しそうに想っているモノを、土足で汚してしまうのではないかと思うと、それだけで身体が動かなくなる。喉に声が張り付いてしまう。
「………」
 頑なに沈黙を守るティアに、ユウリヤは緩く吐息を零し。そっと両腕を離した。
 離れていく温もりを、求めてしまうことが間違っている。ティアははらはらと雫を雨に混じらせて落としていった。

「ごめんなさい………」

 全身の力がまるで糸が切れてしまった操り人形のように、弛緩してしまったみたいに、指先ひとつにも力をもって動かせなくなった。
「私………」
 無理やり聞きたい訳でも、待つと決めた自分の意思は間違っていないと思うのに、背中に冷たさが染みていっただけで、心は思ったよりも深く動揺していた。

 それが恥ずかしい………。

 同意を求めるとは違う独り言。彼は過去と向かい合おうとしている。抱きしめる腕の強さがそれをティアに教えていた。





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