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硝子の挿話

第4章 蜜月

 小さくなって、自分自身を必死に守る姿。ユウリヤはそっと、その脅えている背中を今度は抱き締めた。

「っ!」

 離れた筈の温もりが、もう一度肩越しに教える体温。優しく切ない。そんな空気―――。
 一緒に居て、抱きしめられて、安堵をしたのは始めてだ。
 どうしても遠くに感じる瞳と仕草。軽く視線を向けた先で、鎮痛に唇を閉ざし、言葉に出そうとして止まる。幾度か繰り返す仕草に、ティアも彼が何かを伝えようとしているのが分かった。
「ごめんなさい………聞かないと分かち合う時に聞くって決めてました………だからごめんなさい」
 浅ましいと頭で理解するほど、心は理解を示してくれない。その事実に詫びる言葉は幾ら重ねても足りない。
「ごめんなさい…」
 言葉にする度に、軽くなっていく気がする。それでも重ねるしかティアには方法が分からなかった。
 そんなティアの弛緩し、項垂れた背中を抱きしめる。倒れても支えるという意思表示みたいだ。

 躊躇う気配と、考える最初の言葉をティアは感じた。
 一歩を、彼が踏み出そうとしてくれる感触が、申し訳ないのに嬉しいと感じる。どっちが強いのかも分からない混沌とした感情が切ない。

「…俺は五年前までは、月空宮のある公爵家の楽師だった。身分は悪く無かったし、待遇もかなり良かった。…ああいう世界って、競う対象はなんでもいいんだよな」

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