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硝子の挿話

第5章 白夜

 恋を奏でるものもある。二人は出会い恋に堕ちる。共に苦労を分かち、幸せを求めると誓う。子供が生まれる幸福を願う。―――音楽は様々な感情を奏で『歌』や踊りで発散していく術として。また様々な自然への畏怖と敬愛を込めて。そうした文化の中で沢山の楽器も生まれた。
 獣の皮を貼った鼓や、二本の糸を引っ張り作られた弦などが手軽で主に好まれる。中には、風土に合わせた楽器も細かく撒布されており、幾つモノ楽器が太陽宮には存在していた。

「上流階級だけが楽を楽しむのではない…」
「分かっております!」

 言いかけたアルコバレーを遮ると、ユウリヤは喉で焼けた言葉がうまく形をなさないのを知る。沢山言いたいのにそれを全て言葉として吐き出せない。
「俺の言いたいことは、半分も形にならないけど………」
「ならばひとつひとつ語るがよいではないか。焦ることはない。まだ朝は来ぬ…」
 うっすらと笑みを浮かべて、止めた音を再び風に乗せて奏ではじめる。七本の弦から生み出される音は、まるで夜空に向かい鳴く海亀の涙。
 太陽宮では見れない神秘の光景のひとつ。見れるのは水耀宮だが其処では見れない光景が、太陽宮にある。それが冬の数日だけ起こる更けぬ夜『白夜』だ。

「………多分、色々と自分で思っているけど、流浪して色々な景色が見たいってのが一番大きいかも知れません」

 アルコバレーが奏でる音を聞いてひとつだけ浮かんだのは、ひとつの場所だけではなく沢山の場所を見て、色々と独自で音を紡いでみたいということだった。

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