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硝子の挿話

第5章 白夜

 親と同じ職業に就くなら、太陽宮に縛られてしまう。他の宮へ立ち入れたとしても一瞬と思えるほど短さであり、それも権力を保持して上らなければ見れないだろう。それが望みであれば、幾らだって努力を重ねる気概はある。けれどユウリヤがしたいことではなかった。

「他の宮にある楽に触れたい…その地でこの地を語り、その地を知りたい…」
「ぇ…?」

 なんとなく浮かんでいた言葉を自分ではなく、話を聞いてくれていたアルコバレーから出たことに驚いた。
「ふふ…驚いたようだな、わしとて若い時分はそう思い、父がそうであったように流浪を重ねた」
 同じ眼をしていると、アルコバレーは零す。夢を見て、描き、手を伸ばす様。それらのエネルギーは年老いたアルコバレーにはない。後は、どう散るかだけを考え、心を残さずに旅立てるかを願う。
「年はとりたくないの…」
「え?」
 ひとつ高い音を弾くと、音を止めた。





 白い髭を指先で流し、楽器を置くとユウリヤを残し奥へと入っていく。扉を開けると緑色に発光するきのこが無尽蔵に暗い闇を仄かに照らし出している。
 光苔よりも緑色がきついが、光は大きく幻想的な空間を演出することでアルコバレーは好んでこの光茸を使用していた。

「先生?…」

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