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硝子の挿話

第5章 白夜

「………他人(ひと)に聞いた方が早いか」

 季節は既に冬を迎えているが、太陽宮ほど寒冷に落ち込むこともないみたいで、軽くフードを被ると寒さが十分凌げた。
 遠い昔、国はまだ一つで分かれる前にはあった三重の堀を今だ使っているのは、この水の都だけだ。幾つもの舟が往き来しているのが見える。
 キョロキョロと視線を彷徨わせ、聞ける相手を探す。向こう側に見える舟に荷を運ぶ男たち。ユウリヤは覚悟を決めて其方へと寄っていく。
「すまん、道を尋ねたい…」
「あん?」
 頭に布を巻いた逞しさが露な男の一人が振り返る。描かれた地図を差し出した。
「ブブルという男がこの街にいるという、知っているなら教えて欲しい」
「ブブル…?知っているが、謝礼は用意できるのかよ?」
「金は………残念ながら無い」
「なら無理だな」
 あっさりと男が言うと、後の荷物を運べと大声で怒鳴る。ユウリヤは男の腕を掴み、下から挑戦的に覗き込んだ。
「ならば俺も運ぶのを手伝う…それでどうだろうか?」
「はぁ?」
 当面の生活費ぐらいの金子は、旅の間に稼ぎ歩いていた。しかしこれから断続していく生活費となると別だ。太陽宮は収める税が生活費を圧迫することがなかったが、これだけの歓楽街を持つ場所だ。どれだけの税を求められるか分からない。
「金の変わりにこの荷物を舟に運ぶのを手伝う」
 きっぱりと言い切る真面目なユウリヤの顔を、数秒ぽかんと見た男がいきなりげらげらと笑い出した。
「…失礼だな、こっちは真剣に取引を申し込んでいるのに」
「いや……兄ちゃん、アンタいいとこの出だな?」
「いいか悪いかは分からん…それにそれは何か取引に関係あるのか?」
 疑問を素直にぶつけるユウリヤに男はくっと喉を鳴らすと、見上げている肩を軽く叩いた。

「来な、連れて行ってやる。野郎ども!飯を食いたきゃ、しっかり荷を運んでおけっ!」

 それだけ言うと視線でユウリヤを招き、先に歩き始める男の隣に並んだ。

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