テキストサイズ

硝子の挿話

第5章 白夜

「商談は成立した………俺の名前はジーだ」
「ジー?」
「そうだ、そして頭の名前がブブル―――てめぇが探してる男だ」





 偶然と必然は時折、おかしな交差の仕方をする。ユウリヤはこの地に導かれて来たのだが、それは何らかの意志が働き、出会うべき何かがこの地に用意されているのだとぼんやりと考えてしまう。あまりにも詩的考えに恥ずかしくなり、人知れず苦笑してしまった。
 ジーは巨体の威勢がいい、海の漢という感じだ。赤茶色に焼けた短い髪に巻いていた布を解き、入り組んだ街と堀の迷路を迷いもなく歩いていく。
「しかし…入り組んだ場所だな…」
 もう何度曲がったか分からない。もしかしたら誘われて、自ら罠へと入ろうとしているのだろうかと考えが沸き起こってくるほどの時間を二人は歩いた。
「ああ、だからこそ旅人は舟を使う。舟ならば、目的地までは大概迷わないからな…」
 腰にぶら下げていた袋から透明の筒を取り出し、ユウリヤに投げ寄越した。
「飲め、喉乾いただろう」
「いいのか?」
「かまわねぇよ、頭の客なんだしな………お前は、面白そうな匂いがする」
「臭い?」
 ぎょっとして思わず自分の腕を嗅いでしまう。途中無人の温泉などに身を清めたりなどしていたのだが。もしかして歩く内に掻いた汗が臭いを放っているのかと思ったのだ。

「ぶはっ!…くくくっ……違う、違う…」

 言いながらもげらげらと笑う。何が面白いのかユウリヤには分からず、いぶかしむように眉間に縦皺を刻んだ。
「ああ…本当に、おめぇは面白い男だ」
「俺は面白くない!」
 笑われるなんて、たまったもんじゃない。そう言葉の外で吐くと相手にも伝わったのか。
「わりぃ、わりぃ…くくくっ」
 言いながらそれでもまだ収まらないらしい。どんどん機嫌が斜めになるユウリヤを前にしても、ジーはそんなユウリヤの肩を叩き笑い続ける。収まるまでもう何も言わずにいようかと思いながら、筒の蓋を勢いよくあけた。

「………」

 開けると同時に、ぶっしゅーっと強い泡が飛び出してきてユウリヤの顔面を濡らした。
「あははは!引っかかった!ひっかった…くくくっ」
 通路の奥には罠は用意されていないようだが、順調に罠がある気がしたユウリヤだった。
「うん、俺はお前が気に入った」
「俺は嬉しくない!!」
 思わず素直に言ってしまうユウリヤを凄んだ眼差しが見る。
「あ~?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ