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硝子の挿話

第5章 白夜

「凄まれても怖いだけだ!」
 大真面目に言うユウリヤに、ジーは再び笑い出す。何がそれほどオカシイのかユウリヤには分からない。
「あのな、ひとついい事を教えてやるが………怖がらせる為に凄むんだぜ?」
 もっともな意見である。ユウリヤは腕を組んで、それもそうかと妙な納得し終えるとジーの背中を叩いた。


 ―――やっぱり嬉しくない。


 ユウリヤは拳を固めてプルプルと震えるのだが、その意思はジーには伝わらないらしい。まだ笑っていた。
「いつまで笑ってんだよ」
 ブスッと顔を背けて聞くと、ジーは笑いをようやくこらえて振り返った。
 二人が歩いてきた道は、地下に汚水が流れてきているのか、微かに鼻を突く臭いが漂ってきだす。―――やはり騙されたのか。
「こんな場所に人が住めるとも思えないが?」
 確かめる為に問いかけると、ジーは呆れたように溜め息をついた。

「だからてめぇは坊ちゃまなんだよ」

 馬鹿にした眼差しがユウリヤの瞳を射る。先ほどみたいな穏やかさなんて幻であったかのようにギラギラとした空気。一瞬で変質した雰囲気に、思わずジーを呆然と見上げた。
「…ついてくれば分かる」
「………」
 何か失言をしたのか分かったユウリヤは、黙ったまま案内される道を信じる以外残されず、ただ黙々と歩き続けた。

「………此処にいるぜ」

 振り返ると先ほどのことなど、まるで無かったみたいに無邪気とも言える笑みを浮かべ、戸惑いを浮かべるユウリヤの肩を叩いた。
「さっきは、ごめん…」
「さっき?」
 意味が分からないと言いたげなジーを見上げて、瞳を反らして答えた。
「こんな場所にヒトが住めないって台詞…」
「ああん?あー、そうだな。けどてめぇは訛りからして、太陽宮あたりから来たんだろ?」
 こくんと頷く。
「ならそう思って普通なんだろうな、俺がついカッとなっちまんだ………すまんな、大人気ないことだ」
 同じように目を反らし、頭をかきながらふんぞり返るジーの大きな体躯。思わずぷっと噴出すと、バツが悪いのか苦笑してもう一度背を押した。

「案内してくれて、ありがとう…」

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