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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 勿論、まだ日数も浅く贔屓を得られる程でもなかったので、ジーの所で手伝いをしつつであったが。―――それでも楽しかった。

「愛しておられたのですね」
「そうだな…俺にとっては実の家族よりも近くに感じてたんだと思う」

 どれだけ大人と同じに振る舞おうとしても、背伸びには限界がある。それを受け入れてくれるだけではなく、そう扱ってくれた。
 恥ずかしくても例えると『仲間』や『家族』というのが一番近い気がする。
「………たった二年しか学べなかった」
 そのまっすぐでしなやか生き方を。人との混じり方も。
 ジーもそこで知り合った漢達も楽を愛していた。
 もっと語り合いたかったし、もっと時間を共に過ごしたかった。

「………はい」

 ティアにも思いあたるのだろうか、背中に伸ばされた手は優しく滑っていく。
「大切だった…」
「…はい」
「大切だったんだ…っ!」
 為政者は民を数字でしか認識していない。―――呟いた言葉は小さかったが、重みを増加してティアの心を穿つ。
「………」
 何も言えない。ただ回した両腕はそのままでぎゅっと抱きしめた。
「正直、太陽宮と同じだと思っていたんだ………何処も」
 太陽宮は前姫神子が、貧しい村の出であり。引き継いだ現在の姫巫女は医師の娘で、民の暮らしを十分に熟知した彼女達が自ら為政者としても絶対の権力を持っていた。
 逆に月空宮は神子に権力はないのだと、秀麗な面差しを曇らせて月男神子(つきなだみこ)が言ってたことを思い出した。

「………」

 ぎゅっと無意識で握られた拳。ティアの苦悩が込められていることに気がつくと、ユウリヤはその手に捕り、軽く唇で触れることで慰めた。
「すみません…」
「太陽宮は女が強さを持つんだ…実際、うちの家でも母がなんだかんだと一番強かったし」
 母が息子の意志に賛成をしてくれたからこそ、父は不満を押し包み自分を見送ってくれたことをユウリヤは感じてた。
「ティアはティアらしくあればいい。簡単なことに見えても、それはとても難しいと俺は知っている…」

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