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硝子の挿話

第6章 瓶覗

「其処は俺の知っている場所じゃなかった」

 ぽつりと洩らされた言葉。固形燃料の臭いが、焼け崩れた場所で風に乗って流れていた。
 煙の位置から冷たい汗を背中に感じ、不安と焦りなどに高鳴る心音を抑えるみたいに走ってきたのに―――間に合わなかった。
「全て終わっていた…」





 前日まで確かにあった景色は一転して、知らない場所へと変貌を遂げていて。ユウリヤは力なくその場に膝を落とした。
 意識もなにもしてないのに、崩れた両膝は戦慄いていた。

「………生きている自分が赦せなかった」

 昨日も同じ日々だった。
 笑い、肩を組み、楽を楽しみ、明日を約束していた仲間達の面影をひとつも残さず失った。
 『家』と『家族』。生き残ってしまった罪悪に、正気の全てが焼き尽くされるかと思った。
「何故、俺だけが生き残ってしまったのだろう」
 その後悔は後から後から胸を刺し突いては、激しく自らを責め立てた。
 いや。責め続けなければ、立つ事も出来なかったような気がする。ユウリヤは当時を思い出しているのか、瞳が潤み始めていたのをティアは、頭を引き寄せて抱きしめた。
 たった一言さえ、言葉なんて出ない。
 過ぎた時間の中で、何度この気持ちに潰されてきたのだろう。そう思うと、ただ………痛かった。

「暫くは持っていた金と、それからジーの所で溜めた金があったから、俺はアホみたいに酒に溺れた………」

 とても自身の力で大地を踏みしめて、歩くなんて真似は出来なかった。
 自分だけが生きている『事実』が赦せないと思っていた。
 ボロボロになって死んでしまえばいいと願い。全て壊れてしまえとさえ、ユウリヤは思っていたと吐き出した。

「………出逢いが廻ったのですね?」

 それこそ彼が灰色に染まろうとする崩れる身体を、抱きしめてくれる両腕に。
 ユウリヤはその女性を失ったのだということ。―――今もなお、深く愛しているのだということを、刹那に直感した。

「俺は死に憧憬し、全て失ったと思っていた………アイツに逢うまでは」

 やはりと胸中で呟くティアに顔を上げたユウリヤは愛しそうに、袂で小さく両手を広げてみせる。昏い瞳に一瞬の光が差し込んだ。

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