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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 ユウリヤは瞳を閉じ、最初で最後の恋だ、なんて思っていた日々の愛しさと、突然斬りつけられた別離の言葉が蘇る。
「結婚したい、そう思った………相手は下女という嘘で固められた奴隷で、どれだけ俺が望んでも半日も束縛出来ない女だった」
 出会いは罪悪の日から一年半あまり過ぎた雪の降る夜。
 空から降る雪に冷えていく身体を丸めて大きな中央広場で『雪原』を奏でていた。
 悲哀や悲嘆など存分に出た音は、哀愁がいいと側を流れる水路へたまたま通りがかった煌びやかな小舟。
 衛兵が四人も乗るほどの、身分がある舟が一艘。ユウリヤの前で停止した。
 一瞬、何を誰に言っているのか分からなかったが、振り返ってみる場所には自分以外の誰の姿もないことに嘆息した。
「時間を忘れて弾いていたんだ…」
 没頭することで、過ぎていく時間を忘れてしまいたかった。

「………はい」






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