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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 静かに答えるティア。
 思うよりも女は、男をその細い両腕で支えてくれるのだと感じていた。
 抱きしめている筈なのに、本当は抱きしめられている身体。それに安堵を覚える自分を安心した心持で頷き返していた。

「酒が入っていたせいか寒くはなかったんだ…」

 現在のユウリヤは22歳。彼女との出会いは家を出た二年半年後の17歳の頃だ。アトランティスでの成人年齢は15歳と考えると、酒を嗜むのが遅い方ともいえた。
「彼女は貴族の乗る舟に居て、俺が出す音を聞いてくれた…」
 初めから奏でる『雪原』を聞き、後ろで静かに耳を傾ける。
 雪明りと篝火の向こうに見えた黄金に魅了された。
 何の光も感じなかった胸に、久方ぶりに灯された明かり。
 彼女の名前はリティア。
 貴族が連れて歩く為に他宮から連れられて来た娘で、今のティアよりもひとつ年上の少女。
 柔らかそうな黄金色の髪に、深い碧色の瞳を持つ、見目麗しい少女だった。
 これがきっかけで、ユウリヤはその貴族のお抱え楽師へとなった。
 勿論、全てを滅びへ傾かせていたユウリヤを、蘇らせたのも確かで、運気というものがあるなら、急上昇を始めたきっかけで、ひとつの区切りを与えてくれた存在だった。
 一度も帰らずに、長く留守を空けていた組合へ、半年ぶりに戻った時。長が差し出した手紙に魂から救われた思いがしたからだ。
 生きていていいのだと、伝える日を待っていた手紙。それはブブルの手が震えるからと、ジーが代筆したものだった。

「何と書いてあったのですか?」

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