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硝子の挿話

第6章 瓶覗

「俺の音楽が好きだと、何処に居ても聞こえると…それに」
「………それに?」
 ふーっと溜息をつくと、重苦しさが広がりを留めた。
「この手紙は。大きな仕事で、組合から三名しか廻ってこない神殿行事に選ばれて奏でた後に、出されたものだったらしいんだ…」
 その当日に長は受け取っていたのだが、渡すのを長い間忘れていて、大掃除で出てきたのだと教え、頭を下げられた。

「けどさ…これが当日ではなく、あの日に渡されたのは………」
「天の啓示…」

 こくりと一つ頷いた。
 手紙を両手に握り締めて泣き崩れたのだ。彼らは、今も何処かで楽器が編み上げる音楽を、聴いてくれているのだと。ユウリヤは長の前だったが泣いた。
 その場で慟哭するユウリヤの肩を、長は優しく叩き慰める。

「辛かったな…」

 そう一言を洩らして、ブブルに過去力添えを貰ったという長も、実は辛さは同じだったのだとユウリヤは思い、それでも日常を続ける強さを持つ長に恥じた。
 自分を初めて叱咤した。
「俺は甘えていたんだって…教えてくれた」





 手紙は昔、こっそりと姉が作ってくれた守り袋にしまっていた。
 それを見せるのは二人目だが、大切な話の後にしか見せていない。誰彼と見せている訳ではないと知って欲しい。…

「………私が読んで、よろしいのですか?」

 不安そうに見上げた瞳に頷く。確かにティアとは出会って月日は経っていない。けれどその短さにも、愛しさや癒しを求めているのを知って欲しい。
 そう思う気持ちと、自身の奥に眠り時々目覚めては、咆哮をあげる獣にもなれない惨めな自分に、止めを刺したい。
 二度と目覚めることがないように、もっと深くに沈めてしまいたい。―――眠らせて欲しい。

「………辛いこと、悲しいことを半分背負いたい。そう思いますが、全てを暴露して欲しい訳ではなくて………その…」

 いいたい言葉が上手く舌を回らない。
 伝えたい言葉は確かにあるのだが、それをどう形にしていいのか分からない。口ごもってしまったティアを、ユウリヤは分かっていると言いたげに、薄く笑みを刷いた。

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