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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 安堵したのだろう。ティアが浮かべた笑みに、ユウリヤ自身も喉に引っかかっていた異物が外れたように感じる。

 ああ、自分がこの目の前の少女を好き―――なのだと自覚をした。

 愛しいと、胸に覚える感触は長く忘れ果てていた希望。
 まだ誰かを求められるのだという喜びと失意。交わらない純粋な上心と、邪悪な下心が交わらないのと同じだと、冷えた頭の一部で感じている自分がいた。
 ティアの本当の名前は、リリティア。野に咲く小さく透明感のある白い花の名前。この水耀宮にしか生息しないと言われる薬草にもなる花。
「不思議だな…」
 ぽつりと洩らされる。ユウリヤは眼前に座る少女と、もう記憶の中にしか存在しない少女を並べて苦笑した。
 自分と似た人間は、この世に三人存在し、それらが出会うことは稀であるという。
 しかしユウリヤは内、二人と巡り合いそれぞれに惹かれる自分を知っている。それは黄金の髪と碧色の眼差しを持つ少女の影を求めているからだと言われれば、―――微妙に違うのだ。
 リティアは表裏などのない性格で明るく、その身分でありながら卑屈にならず。無邪気さで周囲を翻弄するのに対し。ティアが如何に言葉を呑む癖と、俯いてしまう大人しい性格なのか知っている。

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