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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 胸の奥に毅さを秘めて、それすらも恥らっているような蕾のままの清らかさが、恐らくその神聖さを滲ませていることも感じていた。
 そういう意味では本当に、二人は表と裏。光と影のようにユウリヤは思う。

「ティアとは逆だな…」





 二人は確かに顔形、そして体型などは似ていたが、性質は全てが異なる。漆黒の髪と同じ漆黒の瞳。似ていると思ったのは、後にも先にも、海岸で目を開けた瞬間だけだった。
 ティアを好きになれば、リティアとの思い出も消えてしまいそうで怖い。
 もう、終わって時間も経つのに今だ最期の言葉に縛られている。普段は忘れたつもりでも、ふっと思い出してしまうのだ。

 ティアはその垣間見るユウリヤの表情があまりにも柔らかく、切なかった。

 ティアは指先に感じる傷みにも似た感情に苦笑しつつ、手渡された手紙を開く。
「リティアは、誰とでも友達になれる不思議な…女だった」
 溜めて溜めるだけで、一度も吐き出したことのない気持ち。
 大雑把で豪快な裏に、臆病で寂しがり屋を隠していたのだ。どんどん自分のペースで人を巻き込み、沢山の愛情を両手にしてユウリヤを見上げた。
 あの雪の日に、ふたり出逢ったのは運命だと、言葉ではない感覚を信じていた。

「…出来るなら一日中この腕に抱いていたかった」

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