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硝子の挿話

第6章 瓶覗

 時間にすれば、わずかの長さが、二人の間は永く遠い悠久を彷徨うみたいな心地。
 ユウリヤはその視界を開らけ、ティアをまっすぐに見据える。反らすことを拒絶した眼差しに、ティアは怯えるみたいに見上げた。

「俺は………自分でも知らない所でティアを…求めているのかも知れない」

 断言ではない言葉。迷いが強くある口調はどこか脅えていた。
 裏切る心の高鳴りに、目を背けることも出来ずに、ただ緩慢な時間に甘えている事実。手に入れた状態が安寧にあるほど、背中に流れる冷たい汗。
 世情の垢など知らない眼差しを向ける無垢さ。―――ティアが神職の人間であり、特別だとしたら、その醸し出される空気ではないかと、ユウリヤは思うのだ。
「好きだと言ったら終わってしまう」
 全ての始まりである海に愛される《水姫神子》という立場。
 人であって、人であることを赦されない存在。
 破滅との背中合わせの逢瀬は、甘く優しく傷を癒してくれている。心に微かな光を導いてくれた。
「終わるのですか?」
「終わってしまうだろう?俺は神職の人間ではない」
 ただの楽師だ。そう呟くのに瞳は言葉を裏切っている。

「別に神職でなくとも神と対話する術は幾らでもあります………『至上の音』を神は寵愛すると思いますよ」

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