あなたを三番目の男のままにすればよかった
第1章 私と彼の安寧な世界
「普通だった」
返しはそんなん。
そっかあ、と言って、繋げる。
「お客さんそこそこ?」
「いんや、全然。木曜だったしね」
彼の頭を撫でる。パーマのかかった黒髪が好きだ。彼が好きだ。
「そろそろ沸くんじゃない?」
「ちょっと、あなた見にいってよ」
しょうがないなあ、と私が立ち上がる。彼が少し倒れるフリをして、ソファに寄り掛かる。テレビを見て笑う。
湧いたお湯に、二束のパスタを落として、冷蔵庫にくっついたピンクのキッチンタイマーをセットする。
まったく悪趣味だ。ピンクのキッチンタイマーも、彼が見てる40インチのテレビも嫌いだ。
醤油さしさえも全部、嫌いだ。
まったく彼の元嫁のものが多すぎる。それをまるで許したように使っている私こそが、一番嫌いだ。