テキストサイズ

あなたを三番目の男のままにすればよかった

第1章 私と彼の安寧な世界



古い扉が音を立てる。ただいま、と言った。どこの襖も開きっぱの2DKの部屋は、玄関からすべてが見えて、寝室で一人分膨らんだ布団はなかなか見れない。胸が締め付けられる。

靴を脱いですぐにその布団に歩み寄る。
少しだけ見える乱れたパーマのかかった頭。規則正しい寝息に合わせて上下する布団。

ひざまずいて、しばらく見つめる。
珍しいわね、私の方が帰りが遅いのは。私のこと、少しは待っていてくれたかしら?
ねえ私、他の男とセックスしてきたのよ。分かるわけないわよね。

腰を曲げる。起きてほしい、と願いながら。布団を少しめくって、額に優しくキスを落とす。

ただいま、拓也くん。

小声で、言う。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ