ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第9章 二人だけの卒業旅行
慎『ならいいけど?くれぐれも千陽さん、孕まさないように。…あ、それはそれでいいのか。』
「あのな…」
土産、待ってるから、と、電話を切ってしばらくしてから、襖が静かに開いた。
千「何話してたの?慎之介くんと。」
「あっ!?き、聞こえた?」
どこまで聞かれたんだ?
千「うん。話してる感じで分かった。楽しそうだな?って?」
いつもはフワッとした感じを纏っているのに、
鼻先を掠める、何時もと違う香りと目の前を行き過ぎる浴衣姿の彼に、心臓が大きく跳ねあがる。
千「ん?どうしたの?ボケッとしちゃって。」
「あっ!?で、ど、どうだった?お風呂?」
千「ん?ちょうどよかったよ?大浴場も思ったより広くて…。圭太くんも早く入ってきなよ?」
もうすぐ夕食だよ?と笑う。
千「早くしないと圭太くんの分も食べちゃうからね?」
「そ、そいつはヤバいな?」
何気ない笑顔にでさえ釘付けになってしまう。
彼は悠然と窓際に腰かけ、ああ熱い、とか言いながら、ほんのり赤みの差した頬を両手でぱたぱたと扇ぎ始めた。
「じゃ…いってくるね?」
千「いってらっしゃい。」
アホみたいに彼に見惚れていた自分の顔を隠すみたいに、
俺は着替えを抱え、風呂場へと走った。