ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第9章 二人だけの卒業旅行
千「美味しかったね?」
口直しに暖かいお茶を飲みながら千陽さんが笑う。
千「こんないいところがあったなんて…。」
窓際に座り障子を開け窓外を覗き込んだ。
「ここ、慎之介の親父さんがツーリング仲間とよく来るらしいよ?」
千「へぇ、どうりで…。」
そういえば、純和風の宿の造りに少々不釣り合いな数台のバイクに目を丸くしていたっけ?
千「それより、さ、こっち来て見て?月がめっちゃ綺麗だよ?」
と、俺に向かって手招きをした。
千「電気、消した方が綺麗だよね?きっと。」
俺は部屋の明かりを落としてから彼の隣に座った。
そう、今宵は満月。
綺麗だね?と、見上げる横顔に思わず手を伸ばしそうになる。
千「…別に構わないよ?そのつもりで一緒に来たんだから。」
「え……?」
千「ここまで来て、そんなつもりありませんでした、なんてそこまでズルくないから。」
さっきまで、月を映し出していたはずの彼の瞳の中には俺がいて、
伸ばしかけたはずの俺の手には、彼のしなやかな指先が絡められていた。
その言葉と瞳とに心ごと体ごと引き寄せられるように、
俺たちは唇を重ねた。