
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第10章 分かれ道
寝ぼけ眼で寝返りを打った時、隣にいるはずの人の気配が感じられないことにビックリして飛び起きると、
一組の布団がキチンと畳まれていて、その上には、これまた丁寧に畳まれた浴衣が置かれてあった。
えっ!?ま、まさか、帰った、とか?
布団の中から出ようとして、俺はまたビックリしてしまった。
あのあと二人してマッパで寄り添い寝ていたハズなのに、下着も浴衣もキチンと着ていて、
気づいたら、昨夜の情事の痕も綺麗に拭き取られていた。
急いで浴衣を脱ぎ捨て服を着込み、フロントに走る。
「お連れ様でしたら、その辺散歩してきます、と…。」
…良かった。
安堵のあまり、崩れ落ちそうになりそうだったのを壁に寄りかかって食い止める。
この辺りは夏になると海水浴客で賑わう。
だが、今は春先とあって、人影は疎らだ。
砂浜に続いている足跡を辿ってゆくと、彼の姿は容易に見つけることが出来た。
「千陽さん。」
波打ち際でしゃがんでいるベージュのロングカーディガンを羽織った小さな体が、
何かを無心で砂の上に描いていた。
