ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第12章 薔薇を纏った悪魔
誰…?
僕は自分の恋人に纏わりつく見知らぬ女性を無意識に睨み付けていた。
圭「あ、あ……のさ…」
圭太が困り顔で彼女を見たあと、僕に目線を送る。
「あっ!!ごめんなさい、私ったら…」
僕に気づいた彼女がこちらを振り返った隙に、圭太が彼女の手をやんわりとほどく。
「こちら…は?」
圭「彼女は…その…」
圭太がおどおどしながら僕と彼女を交互に見た。
圭太は、彼女に僕を、
僕を彼女にどう紹介しようか迷っている。
言わなくてもわかる。
彼女は…
彼女は圭太の元カノだ。
ただならぬ僕らの空気に気付いたのかどうかは定かではないが、
さっきまで圭太との再会を無邪気に喜んでいた彼女とは明らかに違い、
彼女は刺すような目で僕を見た。
「初めまして。島崎千陽といいます。高校で美術の講師をしてます。」
今度はその刺すような目が、差し出された僕の手に注がれる。
そして再び目線を上げ、彼女はおずおずと僕の手を握ってきた。
「あの…」
「はい?」
握りしめた手の感触を確かめるみたいに、彼女は僕の手を握り直した。
そして、刺すような目は、いつしか探るように僕に向けられていて、
彼女の愛らしい唇からは、僕と初対面の人のほとんどが口にする言葉が溢れ落ちる。
「失礼ですけど…男性、ですよね?」