ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
見せてもらった細くて小さな花の切り口は火に炙ったらしく黒く炭化していた。
「バラはね、こうやって消毒するんですよ、切り口を焼いて。そうしないと花に水が上がっていかないの。」
「へぇ…詳しいんですね?」
「こう見えて昔、生け花を習ってて。まあ、ほんの十年ぐらいですけどね?」
「十年ならなかなかじゃないですか?」
「そうでもないわよ?」
ふふ、とはにかんだように笑う横顔は少女のようだった。
ふと、感慨深げにバラの花に見入っている僕に向けられる視線を感じて顔を上げると、笑顔でこちらを見ている田嶋先生と目が合った。
「あ、あの…何か?」
「島崎先生、もしかしてどなたかにお花を贈られる、とか?」
「え?いえ…実は誕生日にバラの花をもらったんですけど、一日で萎れてしまったので、どうやったらあんなに長持ちするんだろう、と思って?」
「誕生日にお花を頂いたんですか?」
「え?ええ。」
「その方、って、先生の恋人か何か?」
「え……と…まあ…。」
「誕生日に花を贈るなんて、きっとステキな方なんでしょうね?先生の恋人、って。」
「そ、そうかな?」
何だか自分が褒められてるようで嬉しくなる。
「あら、ニヤけちゃって。ご馳走さま?」
「すっ、すいません!つい…」
「独り身の私としてはちょっと妬けちゃうわ。」