ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
「え?」
「独身なんですよ?私。」
「あ、でも…まだ、お若い…んですよね?」
見た目も雰囲気も若々しい田嶋先生。せいぜいが三十代半ばだと思っていたから、
「もうすぐ三十八。」
立派なアラフォーよ?と、田嶋先生が笑った。
「もっといってる、と思った?」
「もっとお若いのかと…」
「ありがと。褒めてもなにもでないけど?」
すでに冷めきってしまったであろうコーヒーを田嶋先生はにこやかに飲んだ。
「なーんか、男の人のことが信じられなくなっちゃって?」
僕の視線に気づいて、カップをテーブルに置きながらごめんなさい、と苦笑する。
「島崎先生、って、あまり男臭くないからつい…ごめんなさいね?」
「いえ…よく言われるんでそんなには。」
「イヤじゃないんですか?」
「もう慣れました。」
今度は同時にカップを口に持っていく。
フーッ、と息を吐き出し言葉を慎重に選びながらポツリ呟くように田嶋先生は話し始めた。
「昔、結婚を考えてた人がいたんだけど、目前で別れたの。」
物思いに耽るように遠くを見つめる顔は、やっぱり年齢よりも若く見える上に、
最近までドラマに出ていたある女優さんにとてもよく似ていた。