ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
田嶋先生は子供の頃、重い病気を患いそれが原因で妊娠が難しい体質だと医師に告げられていた。
そんな失意の中で出会った恋人との日々は、残酷な宣告さえ悪い夢だったのだ、と思わせるほどに充実していた。
だが、そんな幸せも長くは続かない。
好きな人と長い時間一緒にいればいるほどもっとずっと一緒にいたい、という思いが強くなり、やがて二人の間には「結婚」の二文字がちらつき始める。
自分との未来を語る恋人の幸せそうな顔を見るとなかなか体のことは言い出せなくて、ただいたずらに日々を過ごしていたが、
とうとう両親に会ってほしい、と告げられ、打ち明けざるを得なくなってしまった。
一瞬、驚いたような顔をしたものの、恋人はいつもと変わらぬ笑顔を向けた。「子供がほしくて君と結婚する訳じゃないから」との彼の言葉に胸が熱くなった。
だが……。
「信じた私がバカだったの。」
自嘲気味に笑う横顔は今にも泣き出しそうで、眩しそうに天を仰ぎ見る目からは涙が零れ落ちそうなほどに潤んでいた。
そんな話をして後、恋人から交際を反対された、との電話があった。
とにかく彼女に会ってほしいと何度も説得を試みたが、子供を産めない嫁などとんでもない、の一点張り。
ましてや、長男ともなればなおのこと、逆に見合いを勧められてしまった、と、深い溜め息を漏らした。