
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
眉を潜め、真剣そのものの顔つきになってるいる僕に気づいた田嶋先生が、ぷっと吹き出す。
「島崎先生、顔がマジになってる。」
「えっ!?だ、だって、真面目な話じゃないんですか?」
「そうねぇ…ここまで壮大に話を盛っといて嘘でした、って言ったら怒るでしょ?」
「嘘なんですか?」
「さあ…どうでしょう?」
田嶋先生はふふっと意味深に笑いながらカップを口につけた。
「あの…田嶋先生、一つ聞いていいですか?」
「どうぞ?」
「今の話がホントだとして、田嶋先生から彼に連絡とかしなかったんですか?」
「…してない。」
「それは…どうして?」
「信じてたから。でも…」
あ、と、背後の壁掛け時計を見て小さな声をあげた。
「もうこんな時間…」
「いけない!行かないと…」
ごちそうさまでした、と、ソーサーを持ち上げかけて笑顔で制される。
「そのままでいいですよ?」
「…すみません。」
軽く会釈し保健室を後にした。
慌てて美術室に戻ってみると数人の生徒がイーゼルと画材の準備をしていて、
中でも一際上背があり、まだあどけなさを残す男子生徒が僕に大きな声で言い放った。
「遅いよ?千陽先生。」
