
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
「大木くん、島崎先生でしょ?」
「あっ!!ごめんなさい、つい…兄ちゃんが先生のことそう呼んでるから。」
と、言う彼は、圭太の親友・大木慎之介くんの弟の京四郎くん。
初めて会った時はまだ小学生で、当時一緒にいた同級生の中では一番背が低かったのに、今ではお兄さんの慎之介くんより少し大きいらしい。
「でもさ、島崎先生、って全然男っぽくない…あ、じゃなくてちょっと中性的な感じがするから。ほら、名前も『ちはる』だし?」
側にいた女生徒も同調する。
その女生徒に、教室にいる誰もが頷いた。
「お喋りはここまで。これから口じゃなくて手を動かして!」
手を叩いて、生徒たちの意識を何とか絵に集中させた。
「先生。」
さらさらと、鉛筆の音だけが流れる中、京四郎くんが長い手をスッとあげた。
「大木くん、どうしたの?」
「先生、って、今、恋人とケンカしてんの?」
「はあっ!?」
てっきり絵の質問かと思いきや、全く思いもよらない質問に、思わず素っ頓狂な声をあげた。
「あっ…」
回りの視線に気付き、慌てて口元を手のひらで覆い隠した。
