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ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜

第13章 水に挿した一輪



浮いてる、と言うよりは、彼女だけ別空間にいるかのような佇まいに視線が外せない。



顎の高さに切り揃えられた黒髪は、少し頭の位置を変えただけでさらさらと流れて、



切れ長の涼しげな目元と小さくて薄いピンク色の唇は、柔らかな微笑を湛えるように緩やかなカーブを描く。



そして、透き通るように白い肌は日本人形のように綺麗で、色鮮やかな着物を着せたらさぞ映えるだろうことは容易に想像できた。



やがて彼女は何事もなかったかのように顔を逸らし、被写体に向き直って鉛筆を走らせる。



その姿は騒がしい俗世が気になって、気まぐれに天から舞い降りてきたが、興が失せてまた天に昇って行く天女のようにも見えた。



京「先生?千陽先生?」


「えっ?あ…何?」


京「どうしたの?ボーッとして?」


「あ…あの子…?」


京「ああ、アイツ?」



と、さっきの彼女を指差す。



「あんな綺麗な女の子、いるんだ、と思って?」


京「うーん、確かに見た目はイケてるし、体もひ弱でしょっちゅう保健室にいるから男子から見たらああいうのは守ってあげたい、ってなるのかも知んないけど、俺的にはちょっと…」


「ふーん…。」



道理で。あの、俗世離れした透明感も体があまり丈夫じゃないせいだったんだ、と、



この時はそう思い込んでいた。

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