
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
僕は、あの時、どうして彼女に釘付けになったのか、その理由が今、分かったような気がした。
「じゃあ、どうしてこんなところにいるの?え…と…」
「加納…加納雅(かのうみやび)です、千陽先生?」
「その呼び方は禁止してんだけどな?」
彼女は切れ長の目尻をゆうるりと下げ、白く綺麗な指先で口許を覆った。
雅「いいじゃないですか?先生のイメージぴったりで?」
「そんなことよりいいの?保健室に行かなくて?」
雅「はい。先生と話がしたかったので。」
「僕と?」
雅「はい。」
「それは…どうして?」
柔らかな微笑を湛えたまま、加納雅がゆっくりとこちらへ近付いてくる。
「先生と私、似ている気がしたから。」
「え…?」
歩を進めるたび、彼女の黒髪が生きてるみたいにさらさらと彼女の頬を撫でては落ちてゆく。
そう、怪しく蠢く蛇みたいに……。
まるで、蛇髪の魔物に魅入られたように動けなくて、
歩み寄る彼女に壁際へ追い詰められてゆく。
雅「だって、先生の恋人、って……」
彼女は僕のすぐ目の前に立ち止まって、少し上目で見つめてきた。
雅「男の人、なんでしょう?」
