
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第14章 迷宮の中で
「君、いい加減に…」
教師という特権を振りかざそうとした時、
加納雅の唇の端が妖しげに持ち上がった。
雅「ねえ、先生、気づいてました?さっきの授業で先生のことを見てた男子がいたことに?」
ぐっと言葉を飲み込んだ。
気づいてた。それもずっと前から。
雅「彼、夜な夜な先生のことを想いながらオナニーでもしてるんじゃない?」
声を殺し、楽しそうに笑う。
…そうだ。だからあの時、あの騒ぎの最中、彼女の視線にも気づいた。
僕の一挙手一投足を瞬時も見逃すまいと粘り強く見つめる目に。
雅「先生、さっきの返事は?」
「返事?」
雅「私と付き合う、って話。」
フフッ、と、到底女子高校生とは思えない、滴るような大人の女の色香をふんだんに含ませた笑みを浮かべた。
「だから、僕は女じゃ…」
雅「分かってます。何度も言ってるじゃありませんか?」
「でも、僕は教師だし君は生徒でしょ?」
雅「教師だって人間じゃない?恋愛もするし普通に結婚もするし?」
「だから、それとこれとは…」
雅「…同じです。じゃあ、逆に聞きますけど、先生は教師として私たち生徒のお手本になるようなことをしている、って、胸を張って言えますか?」
「それは…」
あっさり言葉を封じられた僕は黙るしかなかった。
