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ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜

第14章 迷宮の中で



確かに、教師として胸を張って正しいことをしている、とは言えない。



だからといって彼女と付き合うのは違う気がする。



「加納さん、悪いけどやっぱり君とは…」


雅「恋人が男、だって…」



ギクリとして、彼女の顔を見ると、



ゾッとする程に穏やかな笑みをこちらに向けていた。



雅「回りに知れたら、先生、どうなるかしら?」


「う……。」



どう転んでも地獄だ、って思った。





誘われたから教え子と関係してしまったなんて言い訳、通用するはずもない。



かと言って、彼女の申し出を断れば「同性愛者の男性教諭」として、周囲の偏見に晒される。





どちらにしても、教職者としての資質を問われることには違いない。





一体どうすれば…





「島崎…先生…?」



項垂れた顔を少し上げ、加納雅とは別の女性の声が聞こえてきた方を見やると、白衣の裾が視界の端に止まった。



「た、田嶋先生…?」


「どうしました?顔色が…」


雅「じゃあ、いい返事お待ちしてます。『千陽先生』?」



田嶋先生をチラと見、優雅に腰を折ると、



加納雅は何事もなかったかのように軽やかな足取りで立ち去っていった。


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