
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第14章 迷宮の中で
「しばらく横になったらいいわ。」
「…ありがとうございます。」
保健室にどうやって辿り着いたのか記憶にないほどに僕は憔悴しきっていた。
でも、ベッドに横になりしばらく目を閉じていたらいくらか体は楽になった。
だからといって、当面の問題が先送りされる訳ではないから、このまま横になっていたとしても気持ちまで解れそうにないし、
だったら、美術部の生徒たちのためにも少しでも早く教室の鍵を開けておこうか、と、萎む気持ちに鞭打つように体を起こした。
「島崎先生、大丈夫なんですか?起きたりして?」
「もう大丈夫です。」
「でも、顔色が…」
片手を上げ、歩み寄る田嶋先生を制する。
「平気です。ちょっと動揺してしまっただけで体はなんとも…」
「…彼女と何かありました?」
『男の人と付き合ってる、ってバレたらどうなるかしら?』
思い出すだけで頭が割れるように痛い。
「…何でもありません。」
現時点で出来る限りの笑顔を彼女に向けた。
「だったらいいんですけど…」
でも、とまで言いかけ、一度言葉にすることを躊躇う素振りを見せたものの、
意を決したように田嶋先生は強い眼差しを僕に向けた。
「彼女……加納雅とはあまり関わらない方がいいんじゃないかしら?」
