
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第17章 甘くて苦い媚薬
「それはそれで構わないけど……」
彼女のことだ。肖像画を描いてもらうという口実に、何か企んでいるんじゃ?
雅「…怖い顔。どさくさに紛れて変なことされるんじゃないか、って思ってるんでしょ?」
返事の代わりに顔を逸らした。
雅「うふふっ。正直。まあ、でもそれ、いいかも?」
「加納さん!!」
雅「…じゃなくて、真面目に話してるんだけど?」
尚も不信感を露にした目で見つめると彼女は本当に困ったような顔をした。
雅「もう、大丈夫ですってば。お金もちゃんと払うし。」
「だからそんな心配、じゃなくて…」
雅「でも、ただで、って訳にはいかないでしょ?千陽さんの貴重な時間を割いてもらうんだし?」
一瞬だけど、
彼女は、何時も見ている媚びるような表情ではなく、どこか憂いを含んだような顔を見せた。
雅「どうしたんですか?ぼーっとしちゃって?」
「あ…いや。でも、どうして?」
すると、急にいつものあの謎めいた微笑を湛えた。
雅「そう言えば返事、まだ聞いてないなあ?」
「返事?」
つ、と歩み寄ってきたかと思ったら、僕の首に腕を巻き付けてきてキスをした。
