
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第17章 甘くて苦い媚薬
「ちょっ…!いい加減に…!」
雅「私と付き合ってくれるのかどうか、って話。千陽さんてばホント、スキだらけ。いつ変な人に襲われてもおかしくないじゃない?」
いい返事待ってます、と、笑顔でヒラヒラと手を振り彼女は走り去っていった。
妖艶に、誘うように笑う彼女と、どこか遠いものでも見るように寂しげに笑う彼女。
どちらが本当の彼女なんだろう?
もしかしたら、彼女は本当に天女なのかもしれない、と、
あり得ないことなのに、ふとそんなことを考えてしまった。
「う………ん。」
背後でもぞもぞする気配に反射的に振り返ると、加納雅の「彼女」がむっくりと体を起こしこちらを見た。
そして、正に大声を上げようと口を開けた所を慌てて駆け寄り手で塞ぐ。
「お…お願いだから大声出さないで。」
上着を脱いで肩も露な彼女の体に掛けてやる。
「外に出てるからちゃんと制服を着て出てきて。」
慌てて準備室のドアを閉め、廊下に走り出た。
はーもう、寿命が縮む…。
美術室のドアに凭れかかって待つこと暫し、例の彼女が美術室のドアをそっと開けた。
「あの、先生…」
「僕は何も見てないから。」
「え…?」
「早く行って?今なら誰もいない。」
彼女は僕の脇を無言で擦り抜けるように走り去り、、遥か向こうの角でその姿を消した。
